さつまいもでつなぐ、人と世界と未来!さつまいもオタク 橋本 亜友樹さんインタビュー(後編) ■Sweetpotato Interview vol.7

さつまいもカンパニー(株)代表取締役 橋本 亜友樹

さつまいもカンパニー(株)代表取締役 橋本 亜友樹
1978年、兵庫県尼崎市生まれ。千葉県柏市在住。妻と娘の三人家族。
神戸大学大学院自然科学研究科修士課程植物資源学専攻修了。グロービス経営大学院大学経営学修了。
日本ヒューレット・パッカードにてシステムエンジニアとしてキャリアをスタート。
その後、アビームコンサルティングにてITコンサルタントとして勤務した後、 2012年6月に「ITで農業を支援する」をミッションに起業。
2015年8月にさつまいもカンパニー株式会社を設立、2019年8月に一般社団法人さつまいもアンバサダー協会を設立し、それぞれ代表に就任。

サツマイモどっぷり経緯と会社設立

前半では幼少のころから、会社員時代までをふり返ってみた。会社員の頃は、ビジネスプランを考えていた時以外、ほとんど農業とはかけ離れた生活を送っていた。そんな私がサツマイモにどっぷりとなっていった経緯を後半で書きたいと思う。

2012年6月、シックスコンサルティング株式会社という名前の会社を設立した。当時は今よりも農業ITの注目度は低く、また私自身も農業自体に長い間触れていなかったので、「農業×IT」で新しいことをやろうと思っていたが、具体的な案があったわけではなかった。そんな中、生産者支援としては売上を伸ばすことが一番望まれているという話を何名かから聞いて、売上増加=六次化という考えに至った。そこで、六次化支援として農産物やその加工品の通販から手掛けようと事業を開始した。

おいもオールスターズ誕生!

オープンしたのは「おいもオールスターズ」という通販サイト。その名の通り、いも類専門通販サイトとして立ち上げ、当初はジャガイモ、サツマイモ、ヤマイモなどいも類を全て扱おうと、北海道から九州まで生産者を紹介してもらって会いに行ったり、展示会で声をかけたりして仕入先を開拓していた。また、いも類だけでは扱うアイテムに限りがあるため、別の産直ECサイトを立ち上げたりしていた。だが、全国に行くのには当然ながら旅費がかかる。また通販サイトのアクセス数を増やすために、広告を出したり、SEO対策をしたりと、いろいろ費用をかけたが、思うような効果が出ない。会社のお金はどんどん無くなる。もう続けるのは無理だな、転職サイトに登録しようかなと考え始めていたころ、当時知り合った人に、「IT系の仕事を紹介するから、とりあえずそっちで稼いでみたら」と仕事を紹介してもらい、しばらくIT系の仕事に従事することで、なんとか持ちこたえることができた。

おいもオールスターズ 通販サイトにPOPさや親しみやすさを入れようと、ロゴマークをカラフルにしたり、自身のイラストを入れたりしていた。

そして、「おいもオールスターズ」はあれこれ扱うのではなくサツマイモに特化しようと決め、さつまいも専門通販サイトとしてリニュアルをすることにした。当時、グロービスの学友たちからはニッチを攻めすぎだという話を散々された。

あらためて「なぜサツマイモ?」…

ここで最初の質問である「なぜサツマイモなんですか?」に答えようと思う。

前半に書いた通り、私は食糧問題から農業に関心を持ち始めたので、カロリー源(主食)となる作物にしか興味がなかった。次に、どうせやるのであれば、あまり人が注目していない作物にしようと思った。この時点でいも類に絞り込まれた。

実際に、いも類を扱うようになり、その状況を調査し、生産者や関係者の話を聞いていく中で、サツマイモに一番可能性を感じるようになる。ジャガイモは北海道が一大産地で、ポテトチップスやポテトフライ、ポテトサラダなど業務用への偏りが強く、大きな事業者による寡占状態にある。また、サトイモやヤマイモは用途や産地が限定的で広がりがないと思った。それに対し、サツマイモは多様な用途があり、産地も事業者もそれなりに分散している。また全国各地に独自の食文化があったりする。もちろん元々、サツマイモに関心が高かったこともあるが、そのような状況で、自分ができることもいろいろあるのではないかと考えたのが、サツマイモに特化することを決めた理由である。

そこからどんどんサツマイモにのめり込んでいくことになるのだが、そこにも大きく2つの理由がある。

サツマイモにのめり込んだ2つの理由

一つ目が、サツマイモそのものの可能性である。私自身、今ではテレビやラジオ、雑誌などのメディアやサツマイモに関心のある個人・企業からの問合せを受けたり、人前でサツマイモに関することを話したりするようになったが、いまだにサツマイモのことをどれだけ知れているのだろうか?と自分自身に問いかけることが多い。日本の各地だけではなく海外にもサツマイモを見に行ったこともあるし、昔の本を取り寄せて読んでみたり、また実際に自分で栽培したり、加工したり、食べてみたりしているが、常に新しい疑問(知りたいこと)が沸き出てくるのである。もちろん、他の作物も突き詰めていけば、同じようなのかもしれないが、サツマイモの奥深さにはいつも驚嘆している。

様々なさつまいも品種 サツマイモには多くの品種があり、それぞれに違った個性があるのも魅力である。

二つ目が、サツマイモに関わっている人の魅力である。芋づる式というが、会った方がいろいろな方を紹介してくれて、どんどん人の輪が広がっていくのである。そして、面白い(変な)、魅力的な方ばかりである。とあるところで、昔は学校の校長をしていたが、定年後にサツマイモの栽培や加工に関わりはじめた方がいた。その方が言うには、「学校教育にずっと関わっていたが、サツマイモに関わり始めて数年だけど、それから会う人のほうが、ずっと多いし、濃い関係性が築けてる」。この話を聞いたのは、起業してまもなくの頃で、当時はただ面白いエピソードだなとしか思っていなかったが、すぐに自分も実感することになった。

さつまいもクリスマスパーティーを開催し、サツマイモを使ったコースメニューを提供。遠方から来てくれた方もいて、参加者の方々と話しているだけで時間が過ぎてしまった。

その後、シックスコンサルティングはエーブリッジという社名に変更し、オフショア開発やプロジェクトマネジメントなどITを事業の中心にした。そして、サツマイモ販売を行っていた部分を2015年にさつまいもカンパニーとしてスピンオフさせた。

さつまいもカンパニーロゴ さつまいもらしい配色で可愛らしいと好評。私は阪急電鉄創始者の小林一三氏を尊敬しているのだが、実は阪急電車の車両とほぼ同じ配色になっている。

3つの立場とこれからの取り組み

さつまいもカンパニー設立後も、紆余曲折、山あり谷ありだったが、様々な経験ができ、それが自分の血肉となり今の自分があると思う。エピソードは幾らでも書けそうだが、ひとまず半生を振り返るのは、ここで終わりにして、最後にこれからについて書いて終わりにしようと思う。

現在、サツマイモ情報センターの事務局長、一般社団さつまいもアンバサダー協会の代表理事、さつまいもカンパニー株式会社の代表取締役の3つの立場で活動を行っている。

一つ目のサツマイモ情報センターは、今年度から日本いも類研究会の中でサツマイモに特化・深化させる枠組みとして設立した。サツマイモ関係者・関係機関の交流と課題解決のプラットフォームとして、情報発信やイベント(勉強会、セミナー、シンポジウム)といった活動を行っていく。私は事務局長として、運営委員や研究会会員の意見や要望を反映しながら企画や運営を担う。

サツマイモ情報センターロゴ やや古風でシンプルにサツマイモを表現。

 

二つ目のさつまいもアンバサダー協会は、主に消費者向けにサツマイモに関する正しい情報の発信、サツマイモの新しい価値創出を目指す企業・組織との共創活動、サツマイモの魅力を伝えるアンバサダー育成を通じて、サツマイモ産業の持続的な発展に貢献することを目的として、2019年8月に設立した。私以外の3名の理事と事務局と一緒に運営を行っている。今後はアンバサダー育成、さつまいもファンのネットワーク作りに力を入れていきたい。

さつまいもアンバサダー協会ロゴ 全体でさつまいもの花・葉・根を表現し、サツマイモに対する熱い心や、サツマイモの多様さを表現。

東京ドームイベント 東京ドームで実施したさつまいMogMogフェスタ。協会メンバーと一緒に。

三つ目のさつまいもカンパニーは、これまで通りコンサルティング業務を行いながら、実際にサツマイモ生産にも取り組み、新しい資材の活用、機械化やスマート化、様々な品種の栽培に力を入れていく予定である。

コンサルティング風景 干しいも産地支援として生産者の方と一緒に改善に取り組んだ。

栽培風景 実際に栽培してみないと学べないことも多く、簡単だと思われがちだが、栽培に関しても奥深さを感じている。

私はこの3つの立場をうまく活用しながら、サツマイモ業界の発展、すなわちサツマイモに関わる人がみな幸せになれる仕組みを築き上げていくことを、ライフワークとして一生をかけて取り組みたいと思っている。また、私の下の名前は「亜友樹」というのだが、これは「アジア(亜細亜)の友好関係を樹立」して欲しいという親の願いが入っている。いずれはアジアだけではなく、世界中にサツマイモの輪を広げていきたい。

最後に、何の当てもないところから起業し、起業後に築いてきた繋がりでやってこれたのは、ほんとうに良い人にめぐりあえたおかげだと思う。お世話になった方々や家族には深く感謝している。

おいーも学長 編集後記

「なぜサツマイモに…」への質問に対して、お人柄そのまま、誠実に丁寧にお答えいただきました。

さつまいもカンパニー(株)サイトを是非ご覧いただきたいのですが、その理念は「サツマイモは世界を救うSweet potatoes save the World.」と「サツマイモの前ではみな平等All are equal before sweet potatoes.」。ミッションは「事業活動を通じ、サツマイモに関わる人をみな幸せにするWe will make everyone involved with sweet potatoes happy through our business activities.」。

『食糧不足、エネルギーや資源の枯渇、世界の分断と対立といった諸問題に対し、同時並行的な解決が実現可能なサツマイモにフォーカスし、その持続可能な事業モデル構築やサツマイモ産業支援に取組むことで、人と世界と未来を繋いでいきます。』‥‥柔和な笑顔の橋本さんが本気で取り組んでいるからこそ、明るい未来を感じることができます。

最近はニュースで「アグリテック」という言葉をよく見かけます。学生時代から農業とITの両方を学び、さらに現場で実践し「農業×IT」に精通している橋本さん。これからの日本の農業発展とサツマイモの未来のキーマンとして、ますますのご活躍を願っています。

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