川越いもの魅力を世界へ
- 2023/2/3
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【読売新聞オンライン2023/02/02 この人に聞きました】川越いもの魅力を世界へ
川越開運堂 営業部長 森貴史さん
食を探求し、日本中を巡っていた食品会社のビジネスマンがたどり着いた夢の食材とは――。
今回のチャレンジャー、森貴史さん(49)は蔵造りの商家が並ぶ小江戸・川越(埼玉県)で、地元の生産者と協力して、農作物の加工品を商品開発・販売する川越開運堂の営業部長だ。10年ほど前に転職を決断したのは、古里・川越のさつまいもにぞっこんほれ込んだから。彼が立ち上げた干しいもの卸し、小売り事業の販路は海外にまで広がり、「その魅力を伝えるのが今の私のミッション」と言う。出会いが、彼の人生を変えたのである。
「食材は、土地の自然と気候、歴史に深く結びついている」。地産地消を唱え、山形県鶴岡市でイタリア料理店を営む奥田政行シェフの言葉に心揺さぶられ、真っ先に思い浮かんだのが、子どもの頃になじんだ川越いもだった。ビジネスマンの習性だろう、気がつけば農家を訪ねていた。
火山灰に覆われた武蔵野台地は作物が育ちにくいが、落ち葉に米ぬかを混ぜ、2年間発酵させた 堆肥 を混ぜた土で育った「富の川越いも」は太っていた。270年間、落ち葉堆肥農法を守ってきた農家の12代目、伊東 蔵衛 さん(72)の言葉は強烈だった。「100年1日」「百姓は仕事じゃない、 生業 だ」。世界に誇れる食材と確信したのは、彼との出会いがあったからだ。フードコート「縁結び横丁」では川越いもの料理が味わえる
販売量は10年で6倍に増えた。さもありなん。「9里(くり)4里(より)うまい13里」と言うではないか。9里は栗、13里(約52キロ)は日本橋と川越の距離。おいしさは、江戸庶民の折り紙付きなのだ。JR東海の担当者とは「東京で最初にブレークしたスイーツ」と意気投合し、東海道新幹線の車内販売に採用された。
海外向けの商談会では「日本のテロワール」と提案して、パリのスーパーに並ぶようになった。仏語のテロワールはワインを育む風土。それは自然とともに生きる文化である。夢の食材は時空を超え、世界に羽ばたこうとしている。
文・三沢明彦
さつまいものフェス「コエド芋パーク」
「富の川越いも」の農家の皆さん
「落ち葉堆肥農法」は日本農業遺産に認定され、現在は世界農業遺産に向けて審査中だ。川越市に隣接する三芳町の〝いも街道〟では、29軒の農家が伝統農法を守りながら川越いもを育てている。江戸、明治、大正、昭和の歴史的建造物が並ぶ川越市内の通りでも、90軒の店舗がいもを扱っているという。まんじゅう、ケーキ、プリン、せんべい……。タイムスリップしたような街をのんびり歩きながら、地元ならではのユニークな商品を見つけるのも楽しい。2月11・12日、徳川家ゆかりの 蓮馨寺 初のいもフェス「コエド芋パーク」を開催。森さんは「川越いものおいしさを知ってもらうきっかけになれば」と期待している。
(月刊「旅行読売」2023年3月号より)
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