ほしいもを日本発☆世界のスローフードに!幸田商店 鬼澤宏幸さんインタビュー(前編) ■Sweetpotato Interview vol.8

株式会社 幸田商店(KOUTA SHOUTEN & CO.LTD)http://corp.k-sho.co.jp

ほしいも屋 幸田商店 | 干し芋の名産地、茨城県 ひたちなか市 から直送専門店 (koutashop.com)

株式会社 幸田商店 代表取締役社長 鬼澤宏幸さま

幸田商店への入社経緯

私が創業者である父の会社に入社したのは1994年の5月でした。前職は大学を卒業して始めに入社した食品卸売業である国分(株)で、10年勤務しました。当社は修行として3年働いて退社するつもりでしたが、結果的に10年在籍しその間2年(1989年~1991年)はサンフランシスコにあった合弁企業である国分ランバート社に在籍しました。
幸田商店に入社して中国での事業を起こす際、この海外での経験は大いに役立ったと思います。国分時代は特に海外での商品開発に従事し、缶詰・飲料・菓子・フレッシュフルーツ等商社のような仕事をしていました。年に5回以上海外に出かける事も珍しくなく、まさに海外を飛び歩いていた時代でした。

メキシコでのカボチャ栽培は今でも印象に残っている失敗談の一つです。
当時、国分ランバート社はカリフォルニアのチェリーやオレンジ、フロリダのグレープフルーツを日本へ輸出していたわけですが、事業を拡大すべく日本から持ち込んだカボチャの種を使って、メキシコのヘルマシロというアメリカの国境から南へ400km程度行ったところでカボチャを100ヘクタール程度栽培し日本への輸出を計画したのです。

一緒に組んだのはアメリカ カリフォルニアのオレンジパッカーでした。栽培は順調に進みましたが11月の収穫直前に大雨にあい、カボチャがほとんど水に浸かってしまいました。そして、それでも見かけは何ともない状態であったため、日本への輸出を試みました。ところが日本へ帰国しコンテナのデバン(コンテナを開ける作業)に立ち会ったところ腐ったかぼちゃがコンテナから流れ出て来たのです。まさに悪夢でした。その後そのかぼちゃの引き取りを拒否したためアメリカのパッカーから訴訟を受けるという事になりました。

最終的には5千万円程度の損失が出たと思います。今、思えば懐かしい記憶ですが、当時本当に苦しんだのを覚えています。事業計画の甘さ、リスク管理の甘さ、海外パートナーの選び方、様々な教訓がありましたが、実体験として海外で事業を行う厳しさを学ばせて頂きました。

国分で10年勤務した後、幸田商店に入社しました。最初に実施した事はひたちなか市特産物である干し芋市場を調査する事でした。今から28年前、当時の干し芋は秋から春(10月~2月)に販売される季節性の高い商品であり売場としてはスーパーの青果物売場で売られているものという実態がありました。
ほとんどの商品は赤い基調デザインで40代以上の女性が食べるそんな市場でした。

(写真①) 昔から使用されて来た赤を基調としたデザインの干し芋

若い女性によろこばれる健康なおやつへ

そして、国分時代に様々な市場で商品開発を行って来た経験を基に新しいチャレンジを行おうと考えました。考えたのは、若い女性に健康なおやつとして年間食べる事が出来るような市場を作れないかということです。それをしなければ逆にこの市場は尻つぼみになってしまうという強い思いもありました。そこで考えたのが製造における生産拠点となっていた中国で生産するという事でした。

当時 中国産の干し芋はすでに輸入されており、「徐署18号」種という「沖縄100号」種を親に持つ品種が使われていました。なぜこの品種が選ばれたかといいますと茨城県産の干し芋「玉豊」種に色が似ていたというのが最大の理由です。ですが、品質的には固く、甘みのない干し芋でした。品種選定の元となった「玉豊」種は今から60年前昭和30年代にひたちなか市(旧那珂湊)に導入にされました。「玉豊」種は干し芋に最適であり日本一の干し芋産地であった静岡を追い抜いて行く原動力となりました。

そのぐらい品種の適正というのは干し芋において決定的な意味をもっています。そこで、徐藷18号以外に適正な品種が存在するはずだと思い、いくつかの品種を試しながら適正品種を見つけだして行きました。それが中国産ほしいもを大きく拡大する事になったサイショ5号という品種です。

これは従来の中国産に比べて色が黄色味を帯びいかにもおいしそうで、さつまいもの糖化も良くいわゆる粘質系の芋だったのです。この芋に出会い、これであれば日本市場でも行けると直感し、中国産の本格的な開発に着手したのです。その頃の中国産干し芋は山東省の棗壮という奥地で農家が生産しており余り衛生の良い状態とは言えませんでした。

そこで、理想的な干し芋生産の姿を作ろうと青島の北西150kmのところにある南村に干し芋工場を作ったのです。この時パートナーとして選んだのは中国の若い経営者の会社でしたが、元々国営企業で干し芋を手掛けており品質に対する理解や情熱を感じ、このパートナーであれば信頼出来ると思い仕事を進めて行きました。本来であれば商社を介在させるところでしたが、直接投資、直接輸入を行い敢えてリスクをとって行きました。

他社が行っていた中国の干し芋農家で生産したものを選別してパックする方法と比べ私どものように食品工場として干し芋の生産を行うのは品質面と衛生面では上回りますが、コスト面では不利でした。
しかしながら、その後中国の食品における問題が勃発し大手流通業者も価格よりも安全・品質を選択するようになり、当社にとっては追い風となりました。初めに販売する干し芋は茨城産の従来からの干し芋である平切タイプではなく、食べやすいステックタイプを考え尚且つデザインも健康や女性を意識したものに変えました。

(写真②やわらかほしいもパッケージ)

最初は2003年頃から神奈川を中心とする大手ドラックストアにてデドックス中のおやつというコンセプトで大々的に販売していただきました。その事が全国のドラックストアにおいて干し芋を定番として導入していくきっかけになりました。また、大手コンビニエンスストアに導入されるようになったきっかけは東日本大地震の際に年齢層の高い人がコンビニに行くようになり、干し芋を導入したところかなり売れたという事で広がったという経緯が有ります。

現在は、ドラックストア・コンビニエンスストア共に外せないアイテムになって来ています。私が最初に描いた、干し芋を若い人に健康なおやつとして年間食べてもらいたいという思いが実現して来ているところです。そして、その事が干し芋市場の裾野を大きく広げる事になって来ました。

茨城産ほしいもの価値を再発見

中国で商品開発を行って外から茨城県ひたちなか市を見つめた時、茨城産ほしいものその価値に改めて気付く事になります。かつての経験を活かし中国に進出し一定の成功をおさめましたが、中国に進出して判った事は本当においしい干し芋は中国では出来ないという事です。確かにある一定のレベルで均一の品質は作れますが、ひたちなか市で作るいわゆる手作り感のある干し芋は作れませんでした。

その土地のもっている土壌、気候、歴史が作り上げるものはそんなに簡単に真似できないものなのです。改めて自分達の地を見直し、もう一度茨城県産をブランド化して行こうと思いました。そこで目をつけたのが昔から作られていた「泉」種でした。「泉」種は収量が悪く皮を剥くのも大変なのですが、干し芋にした時の色合い、味わいが大変おいしい品種です。

実はこの干し芋私の義理の父が那珂市というひたちなか市の隣町で作っておりその品質の高さに興味を持っていました。そして、原料から自ら作らないと良いものが出来ないと感じ2003年に農業生産法人を設立し本格的なさつまいもの栽培、干し芋の製造に着手しました。義理父の技術を継承する形で原料芋作りから干し芋作り行いもしたのでスムーズに行う事は出来ました。

茨城産ほしいものブランド化で最初に名付けた商品名は「べっ甲ほしいも」というものでした。自社栽培泉から作った干し芋をさらに厳選選別しています。今は機械乾燥が主力になっていますが、この干し芋は必ず天日干しを行います。天候の変動を受けにくく安定した乾燥を実現したり、また省力化するために、最近は機械乾燥がどんどん導入されていますが、天日干しが作り上げる質感にはかないません。天日干しの干し芋は乾燥しては水分が戻りを何日も繰り返す中で作り上げられる、まさに地域の自然が作り上げるものです。そのために、冬場の厳寒期(1月~2月)にしか作る事が出来ませんがだからこそ残して行きたいものであると考えています。そして、元々ひたちなか市を日本一の産地に導いた「玉豊」種からは「海風ほしいも」という商品を作りあげました。

玉豊種は土地を選ぶために栽培するのが難しい品種ですが、良い種芋から自社農園で育てた玉豊をていねいに作り上げた商品です。「べっ甲ほしいも」は2007年のひたちなか市の品評会で金賞、「海風ほしいも」は茨城おみやげ大賞2016で最高金賞を受賞し、弊社を代表する商品となっています。

(写真③べっ甲ほしいも&海風ほしいも)

近年は「紅はるか」種の出現によって玉豊はその干し芋の王者の座から引き落とされましたが、本当の干し芋の味わいは玉豊であると思っております。また、このひたちなか市エリアでないと良い原料が出来ないというのも大変貴重な事であり、「泉」種同様大切なものとして私どもの手で守り続けて行きたいと思っております。

そしてワインの様々な品種が様々な味わいを醸し出すように、干し芋も色々な品種が様々な味わいを作り上げそれを同時に提供出来る事が素晴らしい事だと思っています。

(写真④ほしいもギフト豊年)

(後編へ)ほしいもを日本発☆世界のスローフードに!幸田商店 鬼澤宏幸さんインタビュー(後編) ■Sweetpotato Interview vol.9 – さつまいも大学

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